2020/06/30

Shantae and the Seven SirensをSteamサマーセール中に買え

今回は結論から先に書こう。
「今年のSteamサマーセール期間中に “Shantae and the Seven Sirens” を買え」
買ったならこのあとの文章は別に読まなくて良い。
いや、ローカライズ(クリックで記事内ジャンプ)に関しての言及は読んでいただくべきか。


Metroidvania

皆さんは「Metroidvania(メトロイドヴァニア)」というゲームジャンルをご存知だろうか。
2Dアクションゲームに関する知識がそれなりにある人ならば、字面からどういうものを指すか想像できるかもしれない。
要するに「メトロイドキャッスルヴァニア(和名 悪魔城ドラキュラ)みたいなゲーム」の事である。
有名な作品だと「洞窟物語」や「VVVVVV」などだろうか。
多くの作品で共通する特徴としては
・サイドビュー2Dアクション
・正方形の最小単位を起点に上下左右で接続の概念があるマップ構成
といったものが挙げられる。
これ以上の説明は趣旨から外れてしまうのと正直キリが無いので、ググるか実際に2D時代のメトロイドやキャッスルヴァニア(Bloodstained含む)をプレイしてみて欲しい。

さて、そんなメトロイドヴァニアだが、一般的にこれらのジャンルは「難易度が高い」というイメージを持たれがちだ。
本家がレトロゲー故に時代感を反映した高難易度であったり、ネットでよく目にするこれらのプレイ映像はTASなどのいわゆるスーパープレイを撮影したものだったりするからだろう。
(キャッスルヴァニアのドゥエなどは一部の人にお馴染みか)
そうした事情からコアゲーマー御用達ながら、気軽に遊びたい層にリーチしづらいジャンルとなっていた。
とはいえ、実際には近年の作品ではモダン化が進み誰にでも遊びやすく、かつ、高難易度志向プレイヤーでも楽しめるような作りが成されているという事を実感してもらえるゲームがここにあるのでご紹介したい。


Shantae and the Seven Sirens


2019年の秋にApple Arcade(iOSとMacのサブスクサービス)で未完成版が先行リリースされ、2020年の5月に完成版がSteam含む各種プラットフォームで販売された、Shantae(シャンティ)シリーズ18年目にして5作目にあたる本作。
そう、日本語に直訳すると「シャンティと7人のセイレーン」だが、5作目である
冗談はさておき、こちらを見ていただくと随分と日本的な絵であることが分かるだろうか。
それもそのはず、3作目からは日本人イラストレーターのKOU氏(代表作:ロックマンゼクス)がキャラクターデザインを手掛けているからだ。
それに加え、5作目の本作はオープニングムービーの制作を日本の制作会社TRIGGER(トリガー)が請け負っている。
(その他の作中ムービーはタイの制作会社)
これはディレクターであるマット・ボゾン氏の考えによるもので、気になる方はインタビュー記事などを読んでみると良いだろう。

まずビジュアル面のハードルを下げたところで、次はゲームの内容に言及してゆく。

基本システム

先程のメインビジュアルで大きく描かれていた褐色ポニーテールの少女がプレイヤーの操作する「シャンティ」である。
彼女はハーフジーニーといって人間と精霊の間に生まれた存在で、髪をムチのようにしならせて攻撃し、ダンスを用いて魔力を行使し魔法や変身能力を使って苦難を乗り越えてゆく。
ゲームの作りとしてはゼルダシリーズ的な「ハート」と「ハートの器」入手による体力の増強や、変身能力・魔法の獲得でパワーアップする成長要素がベースにある。

上述の髪と魔法・変身の他にアイテムショップでは薬系消費回復アイテムと非消費アイテム(主に武装)を購入することができ、髪では対応しづらい遠距離への攻撃手段や、ボス戦での火力向上を図ることもできる。
魔法と武装は共有の「魔力ゲージ」を消費し、雑魚敵がドロップする魔力を拾うか、魔力を回復させる効果のある消費アイテムを使うことで回復できる。

他にも雑魚敵を倒した際に低確率でドロップする「カード」を入手し、3枠のスロットにセットする事で雑魚敵の特徴に応じたパッシブスキルを身につけられる
このようにプレイヤーの採れる手段がいくつも用意されているが、それぞれの供給・解禁に関する設定が絶妙で、プレイヤーがストレスを感じにくいような設計になっている。これは後ほど詳しく説明しよう。

また、「即死」が存在しないというのも評価すべき点だ。
「落下死」やいわゆる「即死トゲ」といったものは存在するものの、これらは厳密には即死ではなく、「ハートを1つ失ってその部屋の入り口に戻される」という処理になっている。
つまり、「不意のミスでそれまでの努力が無に帰す」という事態が起こりにくい。

では、要素の供給・解禁に関して詳しく書いていこう。


消費リソース

ショップで用いるお金は敵からのドロップだけでなく、サブイベントで街のキャラクターから貰えたり、序盤で解禁されるミニゲームに勤しめば無限に増やすこともできる。そうしてショップで薬系の回復アイテムを買い占める事も容易だ。
雑魚からのドロップ頼みである食べ物系消費アイテムに関しても、普通にプレイしていればすぐに所持上限に達するくらいにはポンポン出てくる。
また、後述の武装も一度買い揃えてしまえば「ドロップするお金 >>> ショップで使うお金」になるため、終盤では常にお金カンスト状態でのプレイになるだろう。

カード

雑魚敵が低確率でドロップするカード、そこから得られる50種類のパッシブスキル、その内容は「特定武装の魔力消費を抑える」「落下死時の消費ハートをゼロにする」「○○状態での移動スピードを上昇させる」「魔力のドロップ率を上げる」などなど。
他にも収集アイテムの交換で開放されるボス敵のカードには「ショップの価格が安くなる」「魔力ゲージが自然回復する」「髪による通常攻撃の威力を上げる」などが存在する。
落下死ギミック部屋でハート消費ゼロのパッシブを付ければ無限リトライも可能、というワケだ。


買い切りアイテム

買い切りアイテムは「敵の飛び道具を防ぐバリア」「敵を追尾するミサイル」「自分の周囲を回転する武器」といった武装や、所持するだけで効果を発揮する「通常攻撃のダメージを永続的に上げるアイテム」「通常攻撃の速度を永続的に上げるアイテム」といったパッシブ系もある。
もちろんこれらは装備画面から無効にも出来るので、「買ってみたけど強すぎて白けた」といったケースにも対応可能だ。
そしてこれらはほとんどの物がショップに最初期から並んでいるため、お金さえ集めてくればすぐに装備して使えるようになっている。

変身能力・魔法

変身能力と魔法は要所に控えているボスを倒すことで解禁される。
これらは主に「行動範囲の拡大」に寄与しており、新たな変身能力や魔法を入手することで、それまで「見えていたのに行けなかった場所」に至ることでカタルシスを得られ、また「ハートの欠片(のようなもの)」の入手に繋がり成長の達成感にも寄与している。


ここまで各種要素の解禁・供給について詳しく触れてきたが、要するに、「プレイヤーの行動に制限を持たせつつ、プレイヤーに難易度の調整を一任している」というわけだ。
「武器を使わなければ倒せない敵」というのは存在しないので、硬派なゲーマーは武器を用いず攻略すれば良いし、カジュアルに遊びたいならば各種能力とゲージ回復アイテムを出し惜しみせず使う事でサクサク進む事もできる。
何なら終盤は「強力な画面全体攻撃を行う魔法を連発し、ゲージが無くなったら溢れるほどある回復アイテムを使って再び継続する」なんて乱暴なプレイも可能である。するかしないかはあなた次第だ。


ステージギミック

ステージギミックに関しても絶妙な調整をしていて、カードの項でも少し触れたが、ミスをカバーできるお助け要素が必ず用意されている。
また、ギミック自体の難易度もよく出来ており、例えば「”一定間隔でトゲの出る足場” だけが空中に配置された地帯を飛び移って進む」という場面があり、一見すると非常に難易度の高い鬼畜ゲーの顔をしているが、実は武装であるバリアの最終形態の「発動中無敵」を利用すればそれらを完全に無視して攻略できる。
他にも「自動で進み続ける変身形態で ”移動する即死機雷” を避けて進む」という場面があるが、ここは「進行方向が壁ならば実質的に移動が止まる」という性質を利用して、機雷のすぐ手前で待機してタイミングを見計らうというプレイが可能である。
もちろん、いずれも完璧なタイミングを掴んで正攻法でスタイリッシュにギミックを突破するプレイも可能だし、それが当初想定された攻略法なのだろう。
だが、カジュアルに遊びたい層からすれば、ある閾値を超えた難易度は不快でしかないのも事実だ。
それを容易に回避できる手段が許されているかどうか、というのはやはり「プレイヤーに難易度調整を一任するゲーム」において重要なファクターであると私は考える。


ゲーム表現

最初にキャラデザが日本的と述べたが、それだけではない。
立ち絵以外のキャラクターグラフィックも丁寧に描かれていて、作中で1シーンしか使われない表情とモーションまで用意されているこだわりようだ。
また、本作は完全2Dゲーなので、高解像度環境でプレイした場合、素材に粗があれば隠せないのだが、4K環境で動かしてもUIから各種グラフィックまでボケやジャギ無くキレイに表示されており文句なしの出来だ。
音声に関しても主人公のシャンティは完全フルボイスで喋ってくれる(もちろん英語)し、各種アクション時の声も付いていて可愛らしい。
中盤のイベントでのみ見られる表情とアニメーション(Youtubeリンク)

最初に解禁される変身能力
4K環境でも不快感の無い2Dグラフィック


ローカライズ

ここまで褒めてばかりきた本作だが、明らかな欠点もある。それがローカライズだ。
セリフが不自然なところで分断されていたり、接続詞や言い回しがおかしかったりといった点はもちろんいくつかあるが、それ以上に致命的な間違いが一箇所ある。
発売直後に書かれた他所の記事でも既に指摘されているが、このゲーム、マップ名の東と西が間違って翻訳されている。
原語で「Island West(直訳:島の西)」というエリアが、日本語ローカライズでは「島の東」となっており、また同様に「Island East」は「島の西」である。
更にややこしい事に、ゲームの進行中、キャラクターが方位を示すセリフでは東西が正しく翻訳されている場合がある(?)ので、「西へ行け」と言われた場合にマップの左に位置する「島の」エリアへ足を運ばなければならないときもあれば、逆に右側の「島の西」エリアへ行かなければならない時もある。
この致命的な翻訳の食い違い、Apple Arcade時代からずーっとそのままである。IGN Japanのレビュー記事やSteamのレビュー、コミュニティでも言及されているのだが、いまだ放置状態だ。
日本のパブリッシャーが国内販売に関わるような事でも無い限り恐らく放置されっぱなしだろう。もしかしたら有志による翻訳修正MODが出る方が早い可能性もある。
この点だけはどうしようも無いので、進行に迷ったら手元のiPadなりサブディスプレイなりで「シャンティ セイレーン 攻略」でググって正しい日本語で書かれた攻略記事を参照しながらプレイしていただく他無い。

とはいえ、ローカライズの難点を除けばうまく纏まっていて「しっかり遊んだ感」も味わえるちょうど良いボリュームなのは確かなので、総合的に見ればよく出来た作品といえる。
そういうわけで3000円使うと500円返ってくるSteamサマーセールの今、ちょうどよい今作を買って遊んでみて欲しい。